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【公民】近代刑事法の大原則|長岡校

2024年12月25日

[高校-公民]近代刑事法の大原則『疑わしきは被告人の利益』

 

 

高校生の皆さん、こんにちは。
長岡校の山口です。

今回のテーマは公民です。
昨今世間を騒がせたいくつかの事件を題材に、日本の司法制度のおさらいをやってみましょう。

 

 


 

①袴田事件 再審無罪判決

1966年静岡県で起きた一家4人殺害事件。

容疑者とされた袴田巌さんの死刑判決が確定していたが、再審の末、無罪となった。

【詳細】袴田巌さん再審で無罪判決 事件から58年 証拠ねつ造と指摘 裁判長“時間かかり申し訳ない”と謝罪 | NHK | 事件

 

 

②紀州のドン・ファン事件 無罪判決

和歌山県の資産家の男性を、元妻が殺害した容疑で争った事件。

被告人である元妻が殺人を犯したとするには「合理的な疑いがあるとして、無罪

“紀州のドン・ファン”殺害事件 元妻に無罪判決 和歌山地裁 4つの争点の判断のポイントは? | NHK | 和歌山県

 

 

③猪苗代湖ボート事故 控訴審で逆転無罪

2020年に猪苗代湖で起きたボート事故。当時8歳の男の子が亡くなったほか、母親が重傷を負っているが、「事故を予見できた可能性はない」として無罪。

3人死傷の猪苗代湖ボート事故 控訴審は逆転無罪 一審判決を破棄 加速した船舶に死角 被告の過失認めず:ニュース – FTV 福島テレビ

 


 

 

ここ1~2か月で重大事件に関する無罪判決が相次ぎ、マスメディアやSNSなどで話題となったことは、皆さんの耳目にも新しいのではないでしょうか?

 

 

今日はこれらの話題から、公民の人権・司法分野に触れつつ、『推定無罪の原則』についてお話したいと思います。

 

 

 

 

 

 

裁判制度と被告人

 

 

まず、我々が押さえておかなくてはいけないことは、「裁判制度って誰のためのものなのか」ということです。
この点を最初に理解しておかないと、これ以降の説明の意味が分からなくなってしまうので注意してください。

 

「裁判って誰のためにあるのか」ですが、率直に言うと「被告人」のためです。「被告人」とは刑事事件で犯罪の容疑をかけられて起訴された人のことです。裁判は、この被告人を守るために設計された制度だといえます。

 

というのも、刑事裁判では被告人を、「一番かわいそうな人」として扱います。
ここが誤解しやすい本日のポイントです。

 

 


 

 

刑事裁判で一番かわいそうな人は?と考えれば普通は「被害者」と答えるでしょう。
大切なものを盗まれたり、けがをさせられたり、ときには命を奪われるような被害にあうことを考えれば、犯罪被害者こそ一番かわいそうな人だと考えても不思議ではありません。

 

ただし、正解はそうではなく、「被告人」です。
なぜでしょう?

 

答えは、「一度犯罪者としてみなされると、世間から感情のままに、一方的かつ無尽蔵の私的制裁が加えられるから」です。

 

 

 

例えば中世の魔女狩りなどを想像してみるとよいでしょう。
ある日いきなり捕らえられ、まともな証拠もない中で一方的に断罪され、残忍な方法で処刑されたりするわけです。それを主導していたのは、熱狂した一般市民でした。

 

または、現代の例で言えば、SNSでも似たような状況だといえます。
有名人がSNS上で誹謗中傷され、心を病んで自ら命を絶つ事件もありました。
人間というのは愚かなもので、ひとたび「正義は我にあり」モードに突入してしまうと、どこまでも残酷になります(みなさんも気をつけてくださいね)。

 

 


 

 

一方で一度でも弱い立場に立たされてしまった人からしてみれば、これは物理的も社会的にも生命の危機です。本当に犯人かどうか、真実かどうかも定かでないまま一方的に悪人扱いされ、弁明の機会も与えられず、延々と断罪され続けるわけですから、この世の地獄にいる気分でしょう。尊厳もへったくれもないわけです。

 

 

犯罪事件の被告人とは、まさにこの弱い立場に立たされてしまった人なわけです。
重ねて言いますが、その人が犯人かどうかなんて、分からない場合がほとんどです。たまたま背格好が似ていたとか、犯行現場近くを通りがかっただけとか、その程度のことで無辜(むこ)の人が犯人扱いをされていた時代も確かにあったのです。

 

 

 

そこで近代国家は、裁判権を国家の権限として、一般市民から取り上げることにしました。
一般人に任せると制裁感情のままに際限のない私的制裁が繰り広げられてしまうからです。だから「人を裁くことができるのは十分な手続きを保証された国家機関だけだよ」というルールを定めたのです。

 

 

 

 

 

 

 

推定無罪の原則

 

また、裁判になっても、被告人に不利なことは変わりありません。
なぜなら自分が本当に無実で本当にやっていないなんてことは、タイムマシンでも発明されない限り証明できないからです。

 

「証明できないことを証明しろ」というのは俗に「悪魔の証明」とも言いますが、被告人が無実の証明をするというのは、まさに悪魔の証明なのです。

 

一方で、犯罪捜査をする警察や有罪を立証しようとする検察側はプロであり、資金も技術も桁外れの国家機関です。法律の素人である一般人が対等に戦える相手ではありませんから、彼らを相手に自分の無実を証明する、というのは実質被告人の負けイベントです。

 

 

 

 

ここで近代の刑事司法では、『推定無罪の原則』という考え方を採用しています。
簡単に言うと「黒に近いグレーは白」という考え方です。

 

 

 

 

犯罪を立証するのは検察の仕事ですが、検察の立証に少しでも「?」な点があれば、裁判官は「被告人は無罪としなければならない」のです。
つまり、裁判は始まる前から「被告人は無罪だろう」という推定からスタートしなければならないのです。

 

 

 

 

 

 

実例ではどうか

 

 

冒頭に挙げたいくつかの裁判例ですが、詳しく見てみましょう。

 

 

上の①②の事件は、「被告人が実際に事件にかかわっていたかどうかはわかりません。だから無罪です。」という趣旨の判決です。

 

ここで重要なのは、本当に被告人が事件に「関わっていない」とまで証明する必要はない、ということです。
一般に本当に無実であるかどうかを証明するのは大変なので、「無実かもしれないな…」と裁判官に思わせることができれば十分なのです。


これらの事件では、被告人が本当に事件に関与したのかどうか、検察が提示した証拠では「わからない」=「無実かもしれない」と、裁判所は判断しました。

 

 

このように、100%この人が犯人です!と言い切れるレベルの立証をしない限り、裁判所は無罪の判決をしなければいけません。このことから、推定無罪の原則は「疑わしきは被告人の利益」とも言われています。

 

 


 

 

次に③の事件は、被告人は実際に事件事故に関わっていました。これは証拠をもって認定されたことです。
しかし、被告人が関わっていても、判決は無罪となりました。これはどういうことでしょう?

 

詳しく書くとまた長くなってしまうので端折りますが、要は「結果だけじゃなくて過程も踏まえると、どうしようもない側面もあるよね」というのが理由です。「これで罪を問うのは無理じゃね?」と裁判官に思わせることができれば無罪となります。

 

 

 

 

 

 

『推定無罪の原則』まとめ

 

そろそろまとめに入りましょう。

 

近代以降の司法制度では、この『推定無罪の原則』が刑事裁判の根っこの根っこにあります。

 

理由は手続き的な保証のない私的制裁から被告人の尊厳を守ることであり、同時に警察や検察といった圧倒的な権力を持つ国家機関とイーブンに戦うために、最初っから被告人有利な状況で戦わせよう、という趣旨なのです。

もちろん、心情的にはこれに違和感を感じる人がいるのも理解できますし、99%被告人が犯人であるとしても、ほんの1%のグレーゆえに無罪となるのも納得できない、という人もいるでしょう。

 

 

 

しかし、いつ自分が犯罪に巻き込まれるかもしれない、自分が犯人扱いされるかもしれないという不安は、現実になりえます。

 

その時に感情のままに一方的に断罪される社会と、一応ちゃんと手続きは踏んでくれるし、弁明の機会も無罪を得るチャンスも残っている社会と、どちらがいいでしょうか?(山口は後者です)

 

 

 

この『推定無罪の原則』は、昨今の刑事事件や刑事裁判を理解する上で非常に重要な考え方です。
頭の片隅に残しておくことでも、何かしらの理解の助けになることは確実です。

 

 

今年の共通テストや小論文の題材でも、狙われるかもしれません。

 

 

 

 

 

◇真友ゼミ長岡校◇

長岡駅東口から徒歩5分!長岡市・見附市・小千谷市からのアクセス抜群!「赤点・E判定からの大学受験」をモットーに、勉強に対して不安や不足を抱えている中学生・高校生を全力サポートする個別指導塾です!
大学受験予備校の代わりに利用をする浪人生・高卒生も在籍しています。
これまでに、スタッフの熱い指導とサポート、なによりも生徒たちの頑張りで数多くの国公立大学や私立大学への志望校合格実績多数!第二の家庭的環境のようなアットホームな雰囲気で学習できます。

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